J-STORIES – 完全に光を遮断した「純度100%の暗闇」の中で、視覚以外のすべての感覚を使って、様々な動きやコミュニケーションを楽しむ。健常者が日常生活では知ることのない視覚なき世界に身を置き、新しい体験や発見をするソーシャル・エンターテイメントに日本でも多くの支持者と参加者が広がっている。
1988年にドイツの哲学者アンドレアス・ハイネッケ氏が提唱したこの活動を日本で行っているのは、一般社団法人ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ(東京都港区)だ。理事を務める志村真介さんは1999年に日本で初めて開催を実現。世界ではこれまでに50か国以上、800万人を超える人が参加し、日本では23万人以上が体験した。

同法人が東京・竹芝で運営しているダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森」では、全盲の人と同じ感覚を体験できるプログラム「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」(DID、暗闇の中の対話)を提供している。
光が閉ざされた暗闇の施設に入ると、視覚は奪われ、参加者が頼れるのはアテンド役を務める視覚障害者の導きと手に持った白杖、手や足の感触、そして参加者同士の声だ。暗闇に作られた芝生や電車の中などで様々なアクティビティを通して、参加者は多くの新しい学びや体験を得る。
DIDでは、闇の中で参加者を取りまとめ誘導する視覚障害者の役割が欠かせない。18年前に鍼灸マッサージ師からアテンド役に転じた木下路徳さんは、募集の求人を知った時の驚きを振り返る。

「視覚障害者1人が90分間もの間、8人のお客様のアテンドを任され、楽しませる役割を担う。視覚障害者がそこまで任されてもらえる仕事があるんだと衝撃を受けた」と木下さんは話す。「自分1人でも何かやれるのではないかと思わせてくれた。非常に興奮したことを覚えている」
当初は、「(健常者は)物が見えるのに、わざわざ見えないところに入って、本当に楽しいのか」との疑問もあった。しかし、暗闇の中で池の水に手を入れて触ってみるという体験など、見える人にはとても衝撃で新しい発見につながることが理解できたという。
多くの参加者にとって、全盲の世界での体験は視覚障害に対する理解を深める貴重な機会になる。同時に、不自由な暗闇での動きや対話が健常者としての意識にも影響する効果もある。
例えば、暗闇の中では、ほかの人の顔も何も見えないため、すべての人が対等であるという感覚が生まれる。参加者同士の信頼が深まるきっかけにもなり、社内コミュニケーションやチームビルディングなどを学ぶ場として、DIDを社員研修に使う企業も少なくない。
DIDを体験できる施設は、竹芝の他にもう一つある。三井ガーデンホテル神宮外苑内にある「内なる美、ととのう暗闇」という「大人のための体験施設」だ。この施設で、2022年4月9日から「午睡」という期間限定プログラム(6月30日まで開催)が始まった。

「この2年間、コロナなどで、皆さんにすごい不安があり、眠りも浅くなっている。ダイアログ・イン・ザ・ダークの暗闇の中で一度寝てみたいという要望もあり、今回は、極上の睡眠を提供しようということになった」と代表の志村さんは言う。
新プログラムは、昭和西川株式会社代表取締役副社長で睡眠研究家の西川ユカコさんと医師の志村哲祥さんとのコラボレーションで実現した。90分のプログラムの中で、実際に昭和西川の『MuAtsu+』の布団で10分から20分間、暗闇の中の昼寝体験ができる。
西川さんによると、10分程度の昼寝は、疲れなどの回復効果があり、暗闇で研ぎ澄まされる嗅覚やマットレスの触感も脳科学的にもよい影響をもたらすという。
ダイアローグ・ジャパン・ソサエティの志村さんは、「世代を超えて、すべての人が自分らしく生きられる社会」の実現に向けて、誰もが対等に対話ができる場としてDIDを引き続き提供していきたいと話す。また、同時にプログラムを通じて新しい発見も楽しんでもらいたいと言う。「今回、視覚障害者と一緒に暗闇の中で対等に出会い午睡をするわけですが、『そういう多様性をもう少し理解すると生産性もさらに上がる』という参加者も多い。これは、私たちにとっても大きな発見です」
記事:大門小百合 編集:北松克朗
トップ写真:twenty20photos/Envato
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