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アートを通して多様性を受け入れる優しい社会の実現へ

Milla Ikeda by Milla Ikeda
09/08/2023
in Culture, Travel
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Home Travel Culture
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自分の中にある「アート」を再認識、日常の中で薄れた価値を掘り起こす展示会

J-STORIES ー 電車、J-POPアイドル、エスカレーター、粘土で作られた人の顔 ー 東京のビジネス街の中心地の一つである丸の内にある日本の大手銀行の展示スペースに、こうした一見無関係な作品が展示された美術展「ART IN YOUはあなたの中にある」が今年5月〜6月にかけて開催された。

「ART IN YOUはあなたの中にある」(ヘラルボニー提供)

この展覧会を主催したのは、「異彩を放て」をミッションに掲げる福祉実験ユニット「ヘラルボニー」。同社が契約する約150人の知的障害のあるアーティストの中から、21世紀美術館のチーフ・キュレーターである黒澤浩美氏の目に留まった16名の作品を特集したものだ。

この展示会について主催団体ヘラルボニーの広報担当である安藤奈穂氏は、展示タイトルにもあるように、鑑賞者が自分自身の中にある「アート」を再認識し、日常の忙しさの中で薄れてしまった価値を掘り起こすことが狙いだと話す。

「それぞれの作家が自分の好きな事にとても一直線で熱量を持って取り組まれているので、作品を見た時に来場者の方自身も自分が好きなことを肯定できるような感覚になるのではと思います。私がアーティストだったらやはり周りの評価とアートが売れるかなといういう視点で描くと思うのですが、本当に作家自身が書きたいものを思うままに表現をしていることを見てこれがアートがあるべき姿だと私は感じていてます。」(安藤氏)

展示された全作品はアーティストの「好き」を表現したもの

安藤氏によれば、実際に今回展示された16名のアーティストによる全作品は、彼らが本当に好きなものだけが取り扱われているという。

例えば早川拓馬氏による「通過電車だらけのポーズ」と題された絵画は、早川氏の鉄道への愛をストレートに表現した作品である。キャンバスいっぱいに描かれた無数の鉄道の中に、注意深く見ると、人物二人が隠れていることに気づく。元々ヘラルボニーのアーティストの作品のファンで、ヘラルボニーの職員となった解説員の嵯峨山絵美氏によると、絵の中の人物は早川氏本人と、早川氏がファンになった推しのアイドルだという。アイドルを好きになるまでは、絵のモチーフとして電車しか描かなかった早川氏が、絵の中に人物を取り込むきっかけとなった作品だ。最近では、ヘラルボニーの従業員をモデルにした人物も描くようになったいう。

「電車がずっと好き、でもアイドルも好きという風になって、同じぐらい好き!となったタイミングでこの作風にたどり着いた。」(嵯峨山氏)

早川拓馬『通過電車だらけのポーズ』(J-STORIES撮影)

「エスカレーターI」と「エスカレーターII」と題された志多伯逸氏のスケッチは、カラフルな他の展示作品とは対照的にシンプルでモノクロームな色調で、彼の好きなエスカレーターが描かれている。写実的ではあるが、実際に存在する特定のエスカレータをモデルにしたわけではなく、志多伯氏の驚異的な記憶力と想像力で組み立てられた作品だ。「何か写真を見て描いたように見えますが、そうではなくて何も見ずに頭の中でエスカレーターを描いているのです。エスカレータが好きだからこそ、頭の中で描けるのかなと思います。視点も面白くてちゃんと流れのわかる作品というところがすごいと思います。」(嵯峨山氏)

(左)志多伯逸『エスカレーターI』(右)志多伯逸『エスカレーターⅡ』(J-STORIES撮影)

『アートセンターで一緒に過ごす私とまさと氏』は、鎌江一美氏が制作したクレイモデルである。鎌江氏が作成するモデルは全て、彼女が好きな人(入所する介護施設の管理者山下正人氏)と決まっている。一つの作品を作成するのに何百個もの粘土を積み重ね、片面には好きな人の顔を、もう片面には自分の顔を作るという作業を2カ月かけて行った。「これは鎌江氏の愛のラブレターです。妄想デートを作品にしています。まさと氏のことがすごいお好きで、二十年ぐらい続けています。ずっと作り続けているのがすごいですよね。」(嵯峨山氏)

鎌江一美が作品を作る様子(ヘラルボニー提供)鎌江一美『アートセンターで一緒に過ごす私とまさと氏』(J-STORIES撮影)

会場は国内最大級のギャラリー、銀行のエントランス

「ART IN YOUはあなたの中にある」(ヘラルボニー提供)

この展覧会のもう一つの特徴は、従来の展覧会では作品に添えられることの多い説明を意図的に省き、来場者自身の解釈を促すように仕組まれていることだ。 「まずはファーストインプレッションで自分が何を感じたかを楽しんでもらって、その後に職員の解説を聞いていただくことで、来場者の驚きが倍増していたと思います。純粋にアートを楽しんでいただいた上で、意識を変える瞬間も味わっていただけたのではないかなって思っています」と安藤氏はJ-STORIESに語る。

会場は国内最大級のギャラリーで、お堅いイメージのある銀行のエントランスに位置する。展示の依頼者でもあるSMBCグループは、今までにないアプローチで社会課題の解決にチャレンジするヘラルボニーに共感して展示を依頼したと話すが、そのポジティブな影響は、社内外に及んでいると言う。

「自己紹介するとオフィスでヘラルボニー展をやっていたよねと言う反応をよくいただきます。また、社内においても、福祉×アートで世界を変えようとされているヘラルボニー様の取り組みについて、多くの社員が知るきっかけとなりました。 展示を観覧した際に、今回の展示以外でも当社と一緒にダイバーシティに関する取り組みができないか議論する社員もいるなど、本展示をきっかけとし更に新しいコラボレーションが生まれていく可能性もあるものと考えております。」(三井住友銀行 広報部)

ヘラルボニーは、2018年に双子の兄弟、松田文登氏と松田崇弥氏が立ち上げた。ヘラルボニーと言う言葉に元々意味はなく、兄弟の兄で知的障害のある翔太氏が小学生の時にノートに書いた落書きの一つだった。この何の意味もなく、謎めいた言葉は双子の弟の心に残り、数年後、二人が起業した企業名に採用された。知的障害のある作家によるアートに可能性を見出した二人が始めたビジネスは現在、日本全国の知的障害のある作家とアートライセンス契約を結び、今回のような展示会を都内中心や、大阪、金沢などで定期的に開催するなど、順調に拡大を続けている。

大手企業とのコラボ。日本全国各地でヘラルボニーアート作品

ヘラルボニーの試みは展覧会だけにとどまらない。国内外の大手企業などのブランドと提携することで、作品は食品の缶詰(サヴァ。東日本大震災の被災地発のオリジナルブランド。伝統的な日本の缶詰に西洋風のアレンジを加えたÇavaは人気商品)、オリンピック選手のユニフォーム(卓球・伊藤美誠選手の日本卓球株式会社とコラボレーションした2023年の新ユニフォーム)、建設現場の壁(日本の大手不動産会社積水ハウスとのコラボレーション。日本中の建設現場で使用されている)などに使用されるようになっている。

市販のサバ缶(Çava)のデザインにヘラルボニーと契約されている作家のアートが使われた。 (ヘラルボニー提供)
建設現場の壁に広がるヘラルボニーと契約しているアーティストの作品が展示されている。(ヘラルボニー提供)
日本卓球株式会社(ニッタク)との協力で伊藤美誠選手が2023年1月の全日本卓球選手権大会で着用されたユニフォームにヘラルボニーと契約されている作家のデザインが使われた。(ヘラルボニー提供) 

また、ディズニーとのコラボレーションも実現し、ディズニーストアや日本の若者に人気のブティックなどでさまざまなコラボグッズが販売されている。

ディズニーとヘラルボニーのコラボレーショングッズが販売されている。(ヘラルボニー提供)

また、ヘラルボニーのアーティスト作品は、企業との商品に留まらず、成田空港での展示や広島G7サミットで使用されたIoTゴミ箱など、政府、行政機関などとの協力関係から様々な公共空間での露出にもつながっている。

広島G7のゴミ箱にヘラルボニーと契約されている作家のデザインが使われた。 (ヘラルボニー提供)
ヘラルボニーと契約されている作家のアートを成田空港で飾る企画VIVID。 (ヘラルボニー提供)

目指すゴールは、”異彩”を受け入れられる社会の実現

アートを広げるにあたり、ヘラルボニーが心掛けていることが、契約アーティストに対してきちんとした対価を支払うことだ。原画販売に関するアーティストへの還元率は40%~50%、販売プロダクトライセンスに関しては収益の3%が作家の利益になるなど、持続的な収益システムを作り上げた結果、以前の40倍となる年収400万円を稼ぐアーティストも出てきた。

ヘラルボニーが最終的に目指すゴールは、”異彩”を受け入れられる社会の実現だ。日本各地に、様々な場所や機会でアート作品を見られるようにしたことは、アーティストの収益機会を広げるだけではなく、それ以上に異彩を受け入れる社会を作るために必要な仕掛けだからだと安藤氏は力説する。

「障害のある人もそうでない人も皆それぞれの異彩を放てる優しい社会、その人がその人らしく生きられる社会にしたいと思います。そういう社会を作る為には障害のある方への尊敬が必要で、私たちはビジネスにおいてそのような尊敬を深められるようなアウトプットが必要だと思っています。」(安藤氏)

記事:池田光来 編集:一色崇典

トップ写真:ヘラルボニー 提供

この記事に関するお問い合わせは、jstories@pacificbridge.jp にお寄せください。


本記事の英語版は、こちらからご覧になれます。

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