J-STORIES ー 医療の最前線で手術支援ロボットの活躍が増えつつある。ロボットが自動で執刀するのではなく、医師がロボットを操縦して患者により安全で身体に負担の少ない手術を施す。日本では2020年に国産初の手術支援ロボット「hinotori」も稼働をはじめた。その名は、日本を代表する漫画家で医師免許を持つ手塚治虫の名作漫画「火の鳥」に由来する。
ロボット支援手術は患者の体に複数の小さな穴を開け、鉗子や内視鏡などを先端につけたロボットアームを挿入、医師がコックピットから遠隔で操作して行う。腹部に開けた穴から鉗子などを挿入するという点では腹腔鏡下手術と同じだが、ロボットを使った手術は鉗子や内視鏡をより自由に動かしやすく、従来以上に精緻な動きが可能になる。また、開腹手術に比べて出血が少なく回復までの期間も短い。
かつて世界で唯一の手術支援ロボットであった「ダビンチ」は、1999年にアメリカで発売され、日本でも2009年から大病院などで使用されてきた。開発元のインテュイティブサージカル社のホームページによれば、これまで世界67カ国で行われた手術の症例数は850万例に及ぶという。2019年に「ダビンチ」の主要な特許の多くが切れ、以降は各国で新しいロボットの開発が進んでいる。

「hinotori」を開発したのは、産業用ロボットメーカーの川崎重工と、検査機器・試薬メーカーのシスメックスの出資で2013年に設立されたメディカロイド(兵庫県神戸市)。メディカロイドは「医療用ロボットを通して『みんな』が安心して暮らせる高齢化社会をサポートする」をミッションとし、人の代わりになるのではなく「人に仕え、人を支えるロボット」の開発と実装を目指している。
「hinotori」は2020年から泌尿器科、2022年には消化器外科と婦人科も適応となり、現在31施設で導入、約900の症例数がある。今後は呼吸器外科をはじめさらなる診療分野への適応も見込まれ、医療施設への導入は拡大中だ。
メディカロイドが「hinotori」を開発したのは、「日本人医師の繊細な手技を実現する日本製ロボットの必要性を実感した」(同社)からだった。日本で活躍する様々な医師の声を反映した開発努力の結果、「hinotori」が持つ人間の腕に近いコンパクトなアームは滑らかな動きを実現し、執刀医の体格や姿勢に合わせて調整できるコックピットは長時間の手術に関わる執刀医の負担を軽減できるという。

また、術中のログデータを随時モニタリングし、トラブルが発生した時にはサポートセンターがリアルタイムで原因を究明、問題解決を行う仕組みだ。症例を重ねながら現場の声をフィードバックし、それに基づいて機能のアップデートを重ねる。集めた手術データをデータベース化して、若手医師への「手技の継承」に役立てるシステムも考えているという。
日本では高度な技術や機器が都市部に集中するなど、医療の地域格差が問題となっており、遠隔手術の実現にはその解決策のひとつとして期待が高まる。高い技術を持つ医師が遠隔で地方の患者に対して手術を行うことも想定されるが、メディカロイドによると、現場で強く求められているのは若手医師の手術をベテラン医師が遠隔からサポートする「遠隔手術支援」技術などだという。その実現へ向けて、メディカロイドは大学や企業などと共同で複数の遠隔手術プロジェクトを進めている。
また、同社では海外展開に向けて米国シリコンバレー、ドイツ、シンガポールに現地法人を設立、とくにアジアでは術者の体格が日本人と近いこともあり、早期導入を進めたい考えだ。
記事:嵯峨崎文香 編集:北松克朗
トップ写真:メディカロイド 提供
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